2025年12月、陸前高田に帰省し、「奇跡の一本松マラソン」に出場した。
最初は、地元の大会だから走ってみたい。そのくらいの気持ちだった。
せっかくなら、親に40歳を過ぎた息子が頑張る姿を見せて、少しでも元気になってもらえたら嬉しい。
妻や子供、妹や甥っ子の前でカッコつけたい自分もいた。
そんな思いで帰省したのだけれど、出だしからやらかした。
免許証を忘れた。

走る前から、カッコ悪い
新幹線の駅から地元は車で約2時間の距離。
レンタカーを借りようと、受付で免許証を提示しようとした際にふと気づく。
あ・・・、免許証忘れた。
レンタカーの運転は、終始妻に任せることになった。
当然車内は地獄のような雰囲気。しかし僕の親の前では態度に出さずにいてくれた。そのあたりを、きちんと切り替えてくれる。妻には本当に感謝しかない。
地元の大会を走りたい、という自分のわがままに付き合わせる形での実家への帰省なのに、妻に負担をかける。
親にも怒られた。
「40過ぎて、奥さんに迷惑かけて何やってるの。」
返す言葉もない。
頑張る姿を見せに帰ってきたはずが、その前に、いい年をして叱られる息子に戻ってしまった。
実家についてからも、僕は気持ちを切り替えられずにいた。
正直、ハーフマラソンどころのメンタルではない。
それでも、せめて走りで挽回したい。
今思えば、速く走ったところで妻の運転の負担が減るわけでも、忘れた免許証が届くわけでもない。
でも、そのときは何かで取り返したかった。
家族が待っていたハーフマラソン

そんな気負いを抱えて走ったハーフは、終始きつかった。
スタートからの長い下り。つまりラストには長い登りが待っていることを意味する。
当然、余裕のない自分にはそんな当たり前のことすらも想像できていない。地元の大会とはいえ、なにしろ初参加の大会だ。
家族の前では痩せ我慢をして強がったけれど、妻から見れば、どう見てもバテバテ。疲労困憊に見えたようだ。
しかも「遅い!」と。
妻は僕の親や甥っ子、落ち着かない子供と一緒に、応援するために待っていてくれていた。
2周回のコースなので、本来応援はありがたいはずだが、寒い中通過するのを待っていてくれる家族や親のため、早く走らねばという重圧と免許証を忘れた罪悪感が入り混じり、体も思うように動かない。
走っている自分は、自分のきつさで精いっぱいだったが、待っている側にも、待っている側の大変さがある。
運転まで任せてしまった妻には、本当に申し訳ない気持ちでいっぱい。
こんなメンタルでは、当然のことながら走りでも挽回できず、自分の中では不甲斐ない結果だった。

40歳を過ぎても、見てほしい
それでも、母は感動してくれていた。
親が僕の走る姿を見るのは、運動会以来だったようだ。
自分としては、もっとカッコよく走るつもりだった。余裕のあるところを見せたかった。
でも、久しぶりに息子が頑張る姿を見た母は、喜んでくれた。
それが、嬉しかった。
免許証を忘れて妻に迷惑をかけたことは、きちんと怒られた。そのうえで、走る姿には感動してくれた。
その反応を見て、ふと思った。
人間、いつまでたっても、お母さんに見てもらいたいし、ほめてもらいたいんだな。
40歳を過ぎて、自分も親になった。それでも、子供の頃のような感覚が、ちゃんと残っていた。
というのも、今まさにうちの息子が何でも親に見てほしい、ほめてほしい盛りだから、余計に気付かされる。
できたことを見せたい。頑張ったら、ほめてほしい。
毎日のように、その「見て見て」を受け止めている僕も、地元に帰れば、母に走る姿を見てほしかった。
なんだ。
歳をとっただけで、息子と同じじゃないか(笑)。
最初は、地元の大会だから走ってみたいと思っただけだった。
でも、陸前高田へ帰って走ったことで、自分の根っこにある「走る意味」を一つ見つけた気がする。
速くなりたい。記録を更新したい。
それもある。
でも、頑張る自分を、大切な人に見てもらいたい。喜んでもらえたら、自分も嬉しい。
そんな、子供の頃から変わらない気持ちもあった。
カッコよくはいかなかった帰省だけれど、走ってよかったと思います。
あとがき
今回の家族との旅では、妻に負担をかけ、反省の多い帰省になりました。それでも、地元を走ったからこそ気づけたことがありました。
気持ちに余裕はなく、走りも苦しかった。
けれど、ふと目に入るのは、記憶の中にある、生まれ育った土地の景色。
慣れ親しんだ土地なのに、大会の緊張の中で走ると、いつもとは少し違って見える。
走りながら、思いがけず子供の頃の何気ない記憶が蘇ってきました。
思い出すのは、他愛もないことばかり。
思い出したからといって、何かが変わるわけでも、答えが見つかるわけでもありません。
それでも、こんなことをまだ覚えていたんだ、と少し嬉しくなる。
いつもの帰省では通り過ぎていた景色を自分の足で走る。すると、忘れていたつもりの記憶が、ふと戻ってくる。
それだけでも、地元を走ってよかったと思いました。
親に走る姿を見てもらい、その反応を見て初めて気づいた、自分の中に残っていた子供のような気持ち。
ただ帰るだけでは気づかなかったかもしれないことに、走ったからこそ気づけたのだと思います。
みなさんも、生まれ育った場所や、子供の頃にゆかりのある土地の大会を走ってみませんか。
よく知っている場所で、今まで気づかなかった何かが見つかるかもしれません。
もちろん家族と共に帰る際は、気持ちにも準備にも余裕を持って。これは今回の自分への反省です。
そして何より、車を使う際は免許証を忘れずに。
妻よ、ごめん。いつもありがとう。



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